音楽室はピリピリしていた。
 部長の浅沼智景《あさぬまちかげ》がかなり機嫌悪く顔を顰めている。
 窓は申し訳程度に開けられている。暖房はついているものの、暑がりの部長のため、24度設定だ。後輩はもちろん、同級生である陽鞠が寒いと言える立場では無い。
 春の台中学校の吹奏楽部は部長の発言が絶対のようなものである。
 これが理不尽なことだろうがお構い無しだ。
 1年の時は先輩に嫌がらせや無茶なことを言われて、嫌だね、自分達が先輩になったら絶対やらないようにしようねと愚痴ってたのに。
 自分がいざ部長になったらこれだ。社会に出てきた独裁国家の首長だ。
「アンタ達やる気ないの? ないなら、とっとと失せろ」
 智景は手に腰を当てて口を開く。
 陽鞠は部長と目を合わさないように、楽譜に視線を向ける。
 その瞬間、智景はスタスタとやってきて、陽鞠の楽譜を取り上げた。
「ひーちゃんさぁ、あんた、私の話聞いてる?」
 恐る恐る視線を向けると鬼の形相の智景。
「き、聞いてます……」
 同級生なのに、彼女の迫力と恐怖で覇気のない声になる。
「じゃぁ、聞くけど、今の間違えたのってだァれかな?」
 出だしの音を間違えたのは陽鞠だった。
 智景から暗譜してる前提で通しで演奏するように言われた。