「だーかーら、真面目にやるからー!」
 結花は嗚咽をもらしながら、明博にアピールする。
『全て良輔が決めることだ。知らん。お前は働く準備をなさい。うちでは世話しないからな!』
 通話が切れた。
 あんな勢いよく啖呵を切る父は初めてだ。
 
 ――呉松家の当主はね、お母さんの次は結花ちゃんだからね。

 子どもの頃から呪文のように聞かされたこの言葉。
 そのためにも、いい男を捕まえて、母を安心させたかった。
 でも、そうはいかなかった。
 夫は婿養子を拒否した。家業があるからと。
 向こうは兄弟があと2人いるのに。どっちかがやればいいじゃんと。
 社長が自分だからと断った。
 私は社長夫人の箔がほしかった。
 20代で大卒すぐで社長夫人なんて、いかにも玉の輿というか、夢のある話じゃん。女の子が憧れそうな話。
 私は世界一可愛いくてお姫様だもん。
 王子様がいて、召使いがいて成り立つ。
 なのに。なのに。
 跡継ぎが私の知らない所で決まっていた。 
 母も了承していると。
 私抜きなんてみんな意地悪! 
 これからのことを兄に決められるとか絶対嫌!
 ワンチャンあるかな? 
 可愛い末娘のために実家にいさせてくれるかな?
 父のことは昔から軽蔑していた。