娘も家のことやってもらわないと、お嫁さんにいけなくなるよ?
 玉の輿に乗ってもらわないと。
 私なんにも出来ないもん。
 だって、世界一可愛いから、何もしなくていいって。やってもらいなさいって。
 母も夫もそう言っているからいいの。
 私の周りの人はみんな召使い。
 私を上げるためのアイテム。
 娘も夫も。
 何もやらなくていいっていうから、私は母や従姉妹とマッチングアプリで出会った人と遊んでいるだけ。
 なのに、なのに。
 夫が倒れてから、家に誰もいない。
 今日退院したと聞いたが、うちに帰ってこなかった。
 義理の家族の所で療養。
 娘は義理の兄夫婦の下で過ごして、学校に通ってるらしい。

「あ、お母さん? ねぇ、今すぐうちに来て!」
 一人ぼっちで寂しいからと連絡する。実家の母に。
『ごめんねぇー、今日いけないんだ。また今度ね』
「なんでよ! 野田さんは?! 今日なんで来ないの?!」
『今日野田さんは用事があるんだ』
「じゃぁ、柿本さんか大野さんは?」
 苛立った声が電話口から出る。
「そうねー、今日はお休みだからさー。ごめんねぇ……」
 母の穏やかな口調が腹立たしい。
 何でみんな今日来ないの?! 私のお手伝いさん達!
『あ、ちょっとまってねー』
 母が電話口から消えた。