奥の壁には水墨画のようなもので富士山が描かれている。
 朝から不機嫌だった結花は多少機嫌が良くなった。
「結花ちゃん美味しい?」
 周子がご機嫌を伺うように尋ねる。
「まあまあね。値段相応ってとこね」
 注文した豚ヒレカツに対するコメントだ。
 結花は基本的に何事に対してもウエメセだ。周子はそれを咎めない。正確に言うと諦めてるに近い。
 昔は少し注意していたが、すぐに無視するか人格否定レベルで言い返す。この態度は異性には絶対見せない。同性か家族だけだ。だからもういいかとなっている。
 周子としては結花に不機嫌と無視されるのが一番辛い。
 他の家族も諦めている節がある。
 結花の父や兄と姉は何度も注意している。しかし周子が甘やかすので、ますます増長していた。
 結花の父明博(あきひろ)は婿養子で立場が弱いので、結花を注意する度に婿養子の癖にと引き合いにする。
 兄の良輔(りょうすけ)と姉の静華(しずか)は結花のワガママ傲慢ぶりにうんざりして、大学進学と共に早くに家を出た。何年も結花と周子に会っていない。
 最後に家族揃ったのは結花の結婚式の時。半年前だ。
 その前は良輔と静華の結婚式。これはかなり前だ。