周子は立ち上がって小さく頭を下げる。
「まぁ、ご丁寧に……お座りになって」
 結花は周子の隣に座って向き合う形になった。
「今私の隣に座ってるのが母です」
「呉松周子です」
「はい、確か弟の結婚式でお会いしましたね。お久しぶりです」
 陽貴は人の顔と名前を覚えるのが早いタイプである。親族はもちろん、スーパーの常連客はだいたい覚えている。
「もーそんなかたくなんないで。これから病院に行くつもりだったんですぅ。私運転免許もってなくて、あのお手伝いさんに連れってってもらおうかとしてたらはるちゃんが来たからさー。なに、デート?」
 初っ端から結花の空気読めない発言に陽貴は苛立ちを隠そうと顔がひきつる。
「そうですか。それでは後で一緒に行きましょう。それで、学校には連絡されてますか? 陽鞠ちゃんの欠席の件」
 いきなりやってないことを突かれるが「まだやってなくって……娘の担任の先生私に意地悪するから……はるちゃん代わりにやってくれる?」
 アヒル口で上目遣いでお願いするが、陽貴は「自分でやってください」と一蹴した。
「もーっ、はるちゃんのけちっ! いいんでしょ、やれば!」
 結花はその場でスマホを取り出し、春の台中学校に陽鞠が欠席する旨を伝えた。