『お母さん忙しいの!』
 陽鞠はスマホをスピーカーモードに切り替えた。
 ヒステリックな声がスマホから漏れ出る。
「陽鞠ちゃん、どうした?」
 陽貴は心配なのか、陽鞠についてきて病院の入り口にやってきた。
『とにかく今月支払いどうなるの?! 習い事いけなくなるじゃない! 私と陽鞠を野垂れ死にさせるつもり?!』
『とっとと帰ってきなさい!』
『罰としてお小遣いなしね! 帰ったら家のことしてもらうからね! お母さんに叱ってもらうから! 気がだれてるんじゃない?!』

 スピーカーモードであることに気づいてない結花。
 キャンキャン喚く声。
陽貴は急に頭をガンガン叩かれたような感じだと思いつつ、録音アプリを起動する。
目で陽鞠を「ちょっと代わって」とアピールして、交代する。
「結花さん? お久しぶりです。依田陽貴です」
『あ、あらー、お義兄さーん。お久しぶりですぅ。お元気ですかぁ? 今度一緒に二人でディナーいきましょー』
 こんな状況でよくディナーがどうのこうのと言えるなぁと、顰めたような顔つきになる。
「……悠真が体調崩して病院に運ばれたんです。場所は西南病院。分かりますか?」
 陽貴は結花の身勝手な要望を無視して本題に入る。
『そ、そんな……っずっ、しゅ、主人が……、し、心配だわっ』