その6


この日…、東京西部にある東龍会本部では、ノボルとの電話会談を終えた最高幹部の折本が、会長の坂内と畳の間で鍋を突きながら向い合っていた。

坂内:そうか…。ノボルのヤツ、今後の身のこなしを自分からな…。

折本:ええ‥。やはり、黒原の急死という急転直下の事態ってことで、連中も主だったもんは横浜への一時撤退をって考えたらしいんですわ。面倒な関わり合いに巻き込まれると、後々不都合が生じるのではと…。一応、会長には話してみるということで、私からの返事は留保しましたが…。

坂内:フフ…、そうか。俺はまたヤツらが熱くなってよう、いっそ引っ掻き回してやるかって勇んでるんじゃあねえかと、そっちを危惧していたがな。やはり”デキた”ガキどものようだな、ヨコハマ産はよう(苦笑)。

折本:そうですね。やはり、ダサイ玉のドン臭連中とは違ってスマートってとこでしょう。それで、どうしますかね、ノボルたちの方は…。

坂内:そうだな…、しばらくはガキ界隈の再編成で騒がしくなるだろうから、ここは一段落つくまで横浜へ戻した方がいいな。ノボルには俺から直に話そう。この際、他にも色々と申し合せておきしたいしな。

折本:では、その件は会長からということで、お願いします。


...


折本:しかし、黒原が急死となると、”あそこ”のガキどもも慌ただしくなるでしょう。諸星にはもう、会長から指示を出したんですか?

坂内:うむ…。”行け!”とな。そう言っておいた。

折本:じゃあ、いよいよ星流会のメガネに叶うガキの取り込みってこってすね?で、この際”然るべき輩”には一発ガツンとかましておくと…。

坂内:(ニヤケ顔)…フン、諸星のヤロウはその手の目利きはしっかりしてるし、もう抱き込むガキの目ぼしもつけてるわ。そんでよう、早速クサイ絵を描いて、仕掛けたそうだ。そしたら、”さっそく”らしいんだ…。

折本:会長…!それじゃあ、相和会が出張ってくると…。

坂内:ああ、しっかりストーリーに乗っかってくるだろうとよ。もっとも、諸星はそれなりに伏線を敷いておいたようだしな。その辺は相馬とも長いんで、互いの呼吸を読んでのことさ。

折本:そうなると、ひと悶着ですね。こっちもそれなりに備えが必要になりますな。

坂内:まあ、そう急くことはない。相和会は諸星に最初から”回答持ち”でアクションに出る。おそらく即決だろう、今回は…。

折本:それは一体、どういう意図で…。

坂内:決まったことよ。相馬はこの先もガキを押っぺしてくるなら看過はしない。これがメインのメッセージだ。星流会と我ら東龍会に向けてのな。俺の予想では、いずれ星流会のガキには相和会もガキをぶつけて来る気がする。問題はあのイカレた相馬のことだ…、また誰も考えが及ばないどえらいタマ詰めを目論んでいるやもしれん。肝は、ヤツの場合、遊び心に従ってってことだ。油断はできん…。


二人の箸とロックグラスはしばし、テーブルに起これたまま、煮えた鍋から白い湯気だけが忙しく湧き上がっていた。