その7


リトルブラック軍団のリーダー、大打ノボル門出の日…。

相互に面と向かう彼と椎名は二人とも、必然と”あの日”のこと、同じあの寒かった夜を回想していた…。
それは自然と。

”思い出さずにはいられない…。あの日の夜10時過ぎ…、凍えるような寒さに肌をブルブル震わせていた二人を、オレは理由抜きにそれ以上冷えさせたくなかった…。そんな思いから、オレは親に訴えていたな…”


***


「父さん!武次郎兄弟二人は外で寒さに凍えてるよ。せめて離れの作業小屋に入れてやってくれよ!」

当時小学5年の椎名彰利は、あらん限りの純白な心に従って、畳職人の頭の禿げかかった父親に訴えていた。
武次郎は、自分が九州からここ神奈川に小3で転校して以来、サイコーに気の合う悪友仲間だった。

”そうさ…。武次郎は熊本からこの横浜に転校してきたオレにとって、”幼な心”が通じ合った唯一の悪友だった。ふふ…、オレ達二人のその悪友関係は、互いに阿吽でドライな絆がパイプラインのように二人を貫通していたな。不思議な感覚だった…”

彰利のこの思いは、まさに偽らざるべき、自身のココロが語るそのまんまに他ならなかったのだろう…。


***


”武次郎はあの巨体で、九州の田舎モンのオレを小バカにする人間には、文字通り体を張ってオレのプライドを守ってくれた。そんな男気…、ただそれは、ドライそのものだったな…”

武次郎は九州からやってきた田舎モンの彰利を、理屈抜きで気に入った

そのカレに対し、ヨコハマを気取って上から目線で自己上位の低レベルなガキ世界におけるヒエラルキーを手繰り寄せる器用な同級生どもには、その心の丈が許容しなかったのだ。

武次郎はただただ、”そいつら”を駆逐した。
それは躊躇など微塵もなくのレベルで…。

その結果…、九州からの新参者・椎名彰利は、その界隈では豪名を轟かせていた巨漢・大打武次郎の不動たる”相棒”の座を射止めることとなる…。