その6


”…思えば、オレはローティーンの頃から、この人と途方もない野望を胸に、共にして歩んでいたんだな…”

椎名は今日、自分の生まれ故郷である熊本へと向かう”兄貴分”大打ノボルの、冷めた中にも微妙に晴れ晴れしい面持ちを目にして、リトルブラック兄弟を間近かから目撃し続けてきたという、リアルを噛みしめていた。

一方…。

見送られる側の大打ノボルもまた、ヨコハマドリームとも言うべき、自らのリトルブラック・ロードを思い起こすにつけ、目の前の椎名の存在というものを改めて心に刻むことを自身に課さずにはいられなかったのだ。


***


ノボルは咄嗟に、昨夜の武次郎との”雑談”が脳裏にリピート再生させていた。

「…しかし兄貴、彰利はオレ達の福の神だったよな。何しろ、住む場所と軍資金を親に融通させてくれた…。今振り返ってもあり得ねえだろ、こんなこと…」

「武次郎…、人への感謝など、いつでもできる。今はその時期じゃねえぜ。オレ達にセンチメンタルは害毒以外の何ものでもない。わかってるよな?」

「ああ、承知してる。そのくらいのことは。だがよう、事実は曲げられねえぞ。あの時、オレの気の合うツレだったヤツが”それ”をしてくれなかったら…。ハマの叔父さんからの25万だけじゃあ、実際、”自立”はムリだったと思う。違うか?」

「違わないさ。だが、”そこ”に椎名を動かさせたのは、オレ達の裁量だ。いや才覚だな。ふふ…、それを一番わかってる人物ってのが、他ならぬヤツってこった。だから、今回の九州行では三貫野って幼馴染をオレにセットしてくれた。お前だって、三貫野がどんなヤロウか、概ねイメージは湧いてるだろう?」

「ああ。間違いなく俺たちのパートナーの意なり得るドライガイだな。兄貴…、だからこそよう、オレ達の誘導こそあれ、彰利のことはやはりなあ…」

「…」

ノボルはこれ以上、答えなかった。

”武次郎…、お前はそれでいい。だが、オレはそこにはNGってことでないとな。オレ自身の土台が萎えてしまうんだ”

彼は昨夜、武次郎をストーブ越しに無表情で見つめながら、そう自己へと生真面目に強弁していた。