二つのダークな白い吐息⑤



「…あとよう、いずれは出てくる事柄になるから、今はっきり伝えたいが、その前に確認したいんだ。アンタ、これまでも散々ヤバイ仕事踏んできてるとは思うが、ムショの経験はあるのか?」

「ある。大した期間ではないが、二度塀の中に行ってきた。もっとも、殺しでは一度も無しだ。これからも、それは絶対ゴメンだしな」

「なら、オーダー受ける際は、そのリスク次第でNGアリだろ?」

「当然だろが」

「それでは先ほどのNGなしでイエスって、偽りになるぞ」

「まあ、そうなるか…。なら、NG一部ありに訂正するしかねーな」

ノボルは思わず胸の内で呟いた。
”シメた…!”と…。

...


「では、こっちからは補足ってことでな。そのリスク、こちらはほぼパーフェクトでヘッジ可だ」

「…おい、それって身代わりか?」

「そうだ」

「そいつはなかなか難しいぞ。こっちから言うのも何だが、費用もバカにならんしな。それに、余分なことしゃべられて偽物ってのも尚更、面倒だ。変な言い方だが、誰にでもできる”役どころ”じゃあない」

「さすが実際に現場をこなしてきただけに、鋭いな。でもよう、こっちが用意する”それの役”は未成年だ」

「なんだって…‼」

そのあと…、ノボルがその理由・根拠を丁寧に説明すると、オオカミは大きく肩で息をついた。

”おお…、さしもの秒殺モンも、目から鱗が落ちたか。はは…”


...


「…じゃあ、こちらの調べ的には10日程時間を要するが、こっちにはそれまで居られるのか?」

「ああ、構わん。そっちに合わせる。まあ、日雇いの口くらいは自分で何とかなるだろうから、それまでここに留まるってことでいい。この寒さはキツイがな(苦笑)」

「ふふ‥。なら、ここで10日後だ。だが、そこでの結論は雇う方に上から目線で済まんが、こっちの”第1次審査”にとどまる。おたくらと組むかの最終判断は、さらにその先と思ってくれ」

「わかった。何しろ、オレとしてはいざ組むとなれば、ビジネス感覚はいいが、互いに信頼関係ってのを一番にしたいんだ。そこんとこをクリアできるまで、トコトン揉んでもらっていい」

「…」

寒風吹きすさむ中、共に白い吐息を交互させ、この後、”奇異な運命”を共にする二人はこの日、実質的につながった。
奇しくも、遠く離れた横浜の地で弟・武次郎と椎名が、更なる”深い契り”を結んだのと時期をほぼ同じくして…。

この二つの心模様が織り成すコントラスト…。
それこそ、この後の大打グループが辿ることとなる、そのダークな行く末を暗示していた…。