その5


”フン…、我ら大打兄弟のリトルブラック時代は、所詮、幼虫の過程期だったんだ。お遊びさ、あんなもん…!あれからオレたちは、成長と進化を同時に体現していった。それは猛スピードでな。だが、あくまで、時代の流れに沿ってだ”

”今、成虫と化しつつあるオレらは、実質、既にやくざモンと同等を張っている…。そしてその捕らえる目線は、オレ達の方が最先端なんだ。そこでは、奴らの上を行ってる…。フフフ…、オレの全国行脚は、奴ら極道のテッペンどもをも、こっちの描く絵図にはめ込んで行く道程への第一歩となるんだ…”

大打ノボルは横浜を発つ前夜、そう胸に誓って午後11時半前には眠りについた。


***


翌朝、9時前に鶴見市郊外の某ドライブインで、ノボルは椎名彰利と落ち合っていた。

椎名は大打兄弟とはいわば竹馬の友で、年は武次郎と同い年だった。
この3人は、小学校中学年の時分から”行動”をずっと共にしていたのだ。

その3人から始まったブラック・ロードとは…。
ノボルの言をなぞれば、成人に達した彼らは自負通り成虫への途に着くに至り、およそ10人の構成人員を生成していた。
すなわち3人の関係はもはや、ビジネスを共有する仲間だったのだ。
それも極めてコアな…。


***


「…わかった。熊本市内に入ったら、この連絡先に即電話する。三貫野ミチロウだな…。ふふ…、その男のことはお前から今まで、さんざん聞いているからな。概ねイメージは浮かぶ。会うのが楽しみだ…」

ノボルは椅子に深く仰け反った態勢で、咥えタバコから漏れる煙に顔を覆わせながら、乾いたトーンでぼそりとそう言い放った。
だが、カレのその言葉にはどこかギラつき感を宿した、何ともねっとりとした感情も発せられていた。

「ヤツにはこっちでの”オレたち”は、万事伝わっていますから…。即、行動に入れます。ノボルさんも一目見たら、ヤツを気に入りますよ」

椎名はタバコの煙でノボルの顔がぼやけていたが、彼の心の中はくっきりと掌握できていたようだ。


***


「まあ、中学のガキだったオレ達兄弟が、立替え商売を”開業”できる資金を調達してくれたのはお前だしな。その椎名がだ…、生まれ故郷の九州を離れた後も、ずっと繋がってこれた男だ、ミチロウさんはよう…。ならだ、間違いなくオレ達のパートナーに加えられるだろう」

ノボルのこの言葉を受けた椎名は、テーブルを挟んだ正面で薄笑いを浮かべていた。
そしてその胸の内では、こう呟くのだった。

”まさしくだ!ノボルさんと三貫野ミチロウのコンタクトは、オレたちの野望を一気にネクスト・ステージへとのし上げてくれるだろうよ”

…ということだった。