その5



「冷静に行こう、なあ、武次郎…。いいか…、その百も承知は当然ながら、東龍会もだよ。その段で確実に言えるのは、このオプションを実行する際、東龍会に無断はない。それも異議ねえよな、武次郎…?」

「ああ、ねーけどよう…、一体お前ら二人、何が言いてーんだよ!」

椎名の丁寧な言葉まわしも、この時の武次郎は聞く耳持たないといった具合だった。
再び椎名とタカハシは顔を見合わせた。

そして、大きく息をついた椎名が再び武次郎に向かって言葉を発した。

...


「このオペ…、東龍会は完璧以外認めないぞ、武次郎…」

「当たり前だろうが!殺しに失敗は許されねえって。だが、認める認めないって、あれら御仁の顔色伺う必要はないだろうが!違うか、タカハシよう!」

タカハシはここで口を開いた。

「顔色云々って言うより、彼らとのパートナーシップを今後、どう捉えるかに関わります。いや、そこに尽きる」

「うぐぐ…。回りくどい言い回ししやがって!単刀直入に来いって、お前ら‼」

「ああ、わかったよ、武次郎…。だから落ち着けって」

「ふう…、わかった。なら、そっちもわかりやすく言ってくれって」

「あのな…、パートナーシップだなんだかんだと言っても、所詮、こっちにとって東龍会は雇い主なんだ。麻衣についてのヒット成否は、あちらにとって百かゼロしかない。この場合、完璧・パーフェクト以外、彼らにしたら”失敗”なんだ。そのなぜだかは、単純明快さ。麻衣を殺った後のリベンジ対象が、関東直系最高峰に座してる自分たちにまでも及ぶ可能性が大と見てるからだ…」

このあと、タカハシが意を決したかのように一気にまくし立てて答えるのだが…。

...

「武次郎さん…、要するに、本郷麻衣のヒットは”他の対象”とは比べようがないほど、慎重を期さざるを得ない事案なんだ。仮に、万が一、彼らにリベンジが及ぶ余地を少しでも残したなら、こっちの責任を彼らは自分らのリベンジ対象逃れのみ一点から、突きつけてくる。つまり、はっきり言えば、相和会へ差し出す戦犯をあらかじめ用意するくらいを求める…」

「戦犯だとう…‼」

「武次郎さん…、戦犯って言い方はなしとしても、要は、責任者出せですよ。で…、その者は先方…、この場合はズバリ相和会です。すなわち、彼らが納得するに値する責任者をあらかじめ想定することが我々に求められる…。そこで、ノボルさん以外では分が足らんだろうと…。要は、オレ達3人では役不足なんですよ、この場合は。…ここは忌憚なく、3人で話し合いませんか、武次郎さん…」

「貴様らぁ…‼」

武次郎は赤鬼のように目を血走らせていた…。