太陽の光が差す中、二人で黙々と作業をすること三十分程度。
 カチ、カチと静かな教室に時計の秒針の音が、やけに大きく響いている。

 その間わたしは定規で線を引きながら、彼と過ごした一年間のことをぼんやりと思い返していた。


 入学式翌日の変な発言のあと、わたしはそれなりに彼を警戒していた。だから、あまり近づかないようにしていたのだけれど、向こうはまるで懲りずに、熱心に絡んでくる。
 それなのに、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。

 そして気づけばわたしのほうが、彼を目で追うようになった。わたしから話しかけにいくことも増え、一緒に帰ったこともあった。

 友情の延長。
 そんなふうに、わたしは彼との関係性を捉えていた。

 不思議だけれど、恋愛とは少し違うような気がする。彼のことを素敵だと思う時もあれば、苦手だと感じる時もある。好きと嫌い、その狭間に立っているような人だった。

 そう思い込んで自分を納得させないといけない理由が、わたしにはあったから。


(違う。星野は、そんなんじゃ)


 ぎゅっとシャーペンを握る。同じように、心臓がキュウッと縮むような気がした。そして、


「────なあ、栞」


 ドクッ、と大きく音を立てる。

 いいや、違う。
 心臓だけではなくて、身体中に鼓動が響き渡るような感覚がした。ふわふわとした感覚に包まれ、頭も心臓もどうにかなりそうだった。

 星野はたまに、わたしを名前で呼ぶ。
 単なる彼の気分なのだろうけれど、それでもわたしの意識はそのたびに、彼に引っ張られてしまう。
 彼がわたしを名前で呼ぶときは、彼が別の誰かに変わる、合図だから。


「な、なに」

「今日の部活は、サボろうぜ」


 にっ、と笑顔が向けられる。
 これ以上見ていると何かが起こりそうな気がして、思わず目を背けた。視界からその笑みを追いやり、刺々しい自分を呼び起こす。