書類の文字を目でなぞった星野は、わたしの机に書類を置いて「シャーペン」と一言呟いた。


「……え」

「もたもたしてねえで、はやく貸せよ」


差し出したシャーペンをひったくるようにして受け取った星野は、カチカチと数回のノックの後、何かを書き始めた。

驚いて凝視していると、紙の上にすらすらと文字が書き込まれていく。

あっという間に達筆な美文字が並んでいった。


「……星野、どうして」


星野は一度視線を上げて、ちらりとわたしを見た。

それからまた紙に視線を落として、黙々と文字を書き続ける。


(もしかして、手伝ってくれるの?)


 心の中で思うだけで、口には出さない。

 きっと、これ以上訊けば鬱陶しいと思われてしまう。最悪の場合、じゃあやめる、なんて言って放りだしてしまうかもしれない。
 そんなことは絶対に避けたかった。

 無駄に一年間一緒にいたため、大まかな星野の性格は分かってきたつもりだ。


「お前もやれよ。間に合わねえんだろ」


 やや荒い口調の星野に促されて、ペンケースから水色のシャーペンを取り出す。


「どうせ発表テーマ同じだし。そこにある資料使って書けばいいんだろ」


 確認されて小さく頷くと、星野はそれに対して反応せず、また視線を紙に落とした。


(やっぱり、手伝ってくれるんだ。部活中のはずなのに、わたしのために、きてくれた?)


 天地がひっくり返ってもありえないようなことに思考が突き進んでいく。まさかそんなわけない、と脳内で否定を繰り返し、シャーペンを強く握った。

 本当はこれから部活に行くつもりだったけれど、こうなったら予定変更だ。仕上げてから部活に行くしかない。

 星野が原稿を作成してくれているので、わたしはポスターの作成をしよう。

 たくさん文字を書かないといけない原稿を任せてしまって大丈夫だろうかと思いつつ、なんだかんだ言って本人が選んでやっているのでまあ良いのだろうという考えに至る。