「お前、なにしてんの」
「先生に、頼まれごとしてたから遅くなって。今は鞄の準備、かな」
詰まってしまったように声が出しづらい。それでもなんとか絞り出して小さく答えると「あっそ」と興味のなさそうな声が返ってきた。
自分から訊いてきたくせに、呑気なやつだ。
ため息を吐きそうになるけれど、なんとか堪える。
そんなわたしを一瞥もせずに、星野は黙ってわたしの前の席に座った。何も言わないで、ただ窓の外を眺めている。
彼の行動が読めなくて、わたしはやや困惑しながら訊ねた。
「どうしたの、星野」
「……別に」
そっけなく返される。突き放す口調というよりは、これが彼の普通なのだ。
たいていのことには興味がない。そして、自分のことにもあまり踏み込まれたくなさそうな、牽制をするような、不思議な空気を纏っている。
少し近づけたと思えば、スッと離される。逆に離れようとすると、いつのまにか前よりも近づいている不思議な距離感のなかでわたしたちは過ごしている。
仲がいいのか悪いのか分からない。苦手だと思うことはあるけれど、なぜか嫌いにはなれないからだ。
(好き……っていうのも、違うけど)
脳内で一人会話を繰り広げつつ、ふと彼の服装に目を遣ると、彼が部活のTシャツを着ていることに気がついた。
「部活……じゃないの?」
小さく問いかけてみると、真っ黒な髪を揺らして、くるりと星野は振り返った。
カラコンでもつけているのかと疑いたくなるような色素の薄い瞳が、まっすぐにわたしを見ている。
途端に動悸がして、呼吸が苦しくなって、思わずその瞳から逃げるように目を逸らした。
「それは、お前もだろ」
クスリと悪戯っぽく笑った星野が、椅子にもたれて息を吐いた。