「成瀬。ここの書類作成がきちんとできてないんだけど」
「え、わたしはちゃんとしましたよ」
「いや、成瀬はできているかもしれないけどな。この班のリーダーは成瀬なんだから、できていないところはリーダーの成瀬にしっかりまとめてもらわないと困るんだよ」
いかにも正論だと言ったように書類を差し出す担任の顔を見上げる。
顎に生えている髭が視界に入り、なんだか不快な気分になった。
理不尽な言動で生徒を叱りつける彼は、当然生徒からの人気は底をついている。
じっと見ていると、先生は困ったように眉を寄せて、大きなため息をついた。
「まったく……成瀬には期待してるんだ。問題児が多いグループで大変だと思うが、まあ上手くやってくれよ」
書類を押し付けるようにして、「あー、忙しい忙しい」とわざとらしく呟きながら、先生は足早に教室を出ていった。
大人はずるい、と思う。
どうしたって、仕事という壁を盾にされたら、それ以上踏み込んではいけなくなってしまう。素直に頷くしかなくなってしまう。
そんなの卑怯だ。
わたしも忙しいんですよ、先生。決して暇なわけではないんです。
そうは思っていても、結局は引き受けるしかない自分の弱さが悔しい。
「まあ上手くやってくれよ……か」
わたしだって、好きでこのメンバーになったわけじゃない。
問題児と呼ばれるような男子とグループを一緒にしたのは先生じゃないか。
みんなの意見も聞かず、一人で勝手にグループを決めてしまったのは先生なのに。
頭の中で毒を吐きつつ、一人取り残されたわたしは、息を吐いて書類に視線を落とす。