「発情期の度、孕める体になっちゃうね」

 喉を冷たい空気が通り過ぎ、視界がぐらぐらと揺れ始める。下腹部のあたりが、その臓器の場所を教えるように熱くなった。

 オメガであるが故に、男でも妊娠できる体であることを意識させられた途端、精神的な衝撃が体を貫いた。黛が俺の性を知っていたことすらも、その要因になっているかのようで。

 ギリギリのところでなんとか抑えられていたはずの気持ち悪さが悪化し、咄嗟に黛を押し退けた俺は、椅子や机を蹴り飛ばすような勢いで人や物の間を縫い、一目散に教室を飛び出した。

 オメガ。発情期。孕む。瀬那。アルファ。黛。

 オメガ。発情期。孕む。瀬那。アルファ。黛。

 オメガ。発情期。孕む。瀬那。アルファ。黛。

 俺。オメガ。黛。アルファ。孕む。孕ませる。

 俺。オメガ。黛。アルファ。孕む。孕ませる。

 俺。オメガ。黛。アルファ。孕む。孕ませる。

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 めちゃくちゃな思考のまま駆け込んだ、男子トイレ。あと少しなのに、洋式の便器に間に合わず、手洗い場に嘔吐。誰もいないトイレで、嘔吐く俺の声が反響した。

 口から吐き出された汚い液が排水溝に流れていくを、息を荒くさせながら瞬きも忘れて見下ろした。吐瀉物混じりの、飲み込めない、飲み込みたくない涎がたらりと垂れる。

 喉が熱い。心臓が痛い。頭がくらくらする。混乱している。目が泳いでいる。視線が定まらない。吐いたのにすっきりしない。呼吸が浅い。体がおかしい。発情期が怖い。