その様子を、口を閉ざして眺める、見守ることしかできない俺は、涙を隠そうとする由良にひっそりと寄り添うように、十分な間隔を開けてソファーに腰掛けた。

 大丈夫。泣いていい。気の済むまで泣いて、泣いて、吐き出して。

 どこにでもあるありきたりな言葉を選んで由良の側に置いても、それはどれも違う気がして。適切ではない気がして。ぴったり当てはまらなくて。もっと、何か。もっと、別の、何か。泣いている人を慰めるだけのような作られた言葉ではなくて、俺の気持ちを。俺が由良に対して思っている本音を。言えば。伝えれば。日々の小さなストレスが積み重なって、知らぬ間にずっしりと重たくなった由良の心を、少しは軽くできるだろうか。負担を減らせるだろうか。楽にできるだろうか。俺は、そう、したい。

「……由良は、本当に優しいね。ありがとう、由良」

 隣から聞こえる嗚咽と、自分の側に訪れた沈黙。自分のことばかりで薄情な俺と違って、由良は優しすぎるくらい優しいから、傷つきやすい。他人の痛みに敏感な分、自分の痛みに鈍感だから、それが一気に解き放たれた時、どうしようもなく死にたくなって、それで本当に死を選んだら、俺もそうしようと思った。俺が生きるのをやめたら自分もそうすると言った由良のように、由良が生きるのをやめたら、俺もやめる。お互いに、自分が死ねば大事な兄弟が死ぬことを常に頭の片隅にでも置いておけば、安易に死ぬことを選ばずに済むかもしれない。