大丈夫、大丈夫、と言い聞かせていたら、由良の、脈絡のない言葉が、静かなリビングに溶けて。逸れていた意識を引き戻された。由良を見る。誤魔化しながら堪えるように、目元を隠して鼻を啜るその姿は、まるで感極まって泣いているかのようで。由良、と思わず、ぽつりと、感情を表に出して溢れさせる彼の名前を口にするが、気の利いた言葉一つ思い浮かばなかった。由良に触れようとするかのように無意識に伸ばした手は、見えない空気を柔く裂くだけ。

 大丈夫。大丈夫。何が。何が、大丈夫だったのか。大丈夫。大丈夫じゃない。俺は大丈夫だと思っても、由良はそうじゃない。大丈夫じゃない。由良から見た俺も、きっと、大丈夫じゃない。俺も由良も、不安定に、揺れている。いくらお互いに自分は大丈夫だと主張しても、お互いがお互いを大丈夫だとは思わない。つまりそれは、全然大丈夫じゃない。

 由良は俺以上に責任を感じている。俺が由良を見ていなかった間も、由良は俺を見てくれていたのだろう。だから、俺が生きることをやめたら自分もそうするつもりだった、と迷いのない声で、言葉で、言えるのだ。無論、そんな言葉を言わせているのは、そういうネガティブな思考に至らしめているのは、俺が兄らしく毅然としていないからで。自分のことばかりで、たった一人の弟を見ていなかったからで。由良を独りにしたのは俺だ。俺は独りに見えて、独りじゃなかった。由良がいた。いつだって、由良がいた。

「……ごめん、ごめん、こんな、つもりじゃ、俺が、泣いたら、兄さん、泣けないのに。一番、泣きたいのは、兄さん、なのに」

 ごめ、ん、ごめん。何度も言葉を詰まらせながら、何度も謝罪を口にしながら、由良は人差し指を中心とした指先や服の袖で、飛び降りて落下する感情を拾ってはすぐに消し続けていた。