習慣がつくほど常日頃から継続しているせいか、あっさりと巻き終えてしまったが、頭や心、体は多幸感に包まれていて。惚けたように汚れのない白を見つめた俺は、指先でそっと線をなぞった。やっと、自分を取り戻せた気がする。やっと、本当の自分になれた気がする。上半身を覆う包帯の感触が、心地よくて安心した。

 緊張が緩み、大きく脈打っていた鼓動が静かになる。脱いだ制服をそのままに、別の私服に着替えようとタンスに目を向けるその最中で、ベッドから床にかけて垂れ下がっている自分のものではないスポーツタオルが視界に入った。

 あ、黛。黛、の、スポーツタオル。

 オメガがアルファの私物に反応する。俺が黛の私物に反応する。気持ちよさすら覚え始めているふわふわした頭のまま、微かに香る匂いに誘われ、俺は引き寄せられるように体を引きずった。

 昨夜はずっと、黛のスポーツタオルを握りしめていた。そして、握りしめて縋りついたまま、ショックに気絶するように眠っていた。黛に与えられた快楽による気絶とは違って、父親の行為は、ただひたすらに痛くて、それなのに俺は、発情期のせいで気持ちよくなりかけていて。自分本位な劣情を中に出された時にはもう、俺の気は狂っていた。助けを求めるように黛のことだけを考えても、実の父親に中出しされた事実は変わらず。変えられず。それは俺の記憶に一生残るものとなってしまった。

 耐えがたい真っ暗闇のような、恐ろしくて怖ろしい記憶を抹消したくて、忘却したくて、黛のスポーツタオルをするすると引きずりながら部屋の隅に移動した俺は、少しでも黛の匂いに包まれようと膝を抱え身を小さくした。