口に含んだ抑制剤が徐々に溶け始め、薬特有の苦味が舌をなぞる。唾液の分泌量が増え、それがだらしなく口端から垂れてしまいそうになった時、ようやくキャップが緩み、飲める形になったペットポトルの飲み口を湿った唇に近づけた。唾液と違って粘り気のないその液体で、口の中で溶けかけている固体を空っぽの胃に送る。薬を飲むついでに水分も一緒に取った俺は、息を吐いて唇を軽く舐めながら、体に抑制剤が補充されたことを自覚して。そうすると、気持ちが少し、少し、ほんの少しではあるが、楽になったような気がした。

 薬が体に馴染むまで待つように、どこを見るでもなくぼんやりとして数分。未だに動悸は続いていたが、何もせずにいつまでも廊下に座り込むわけにもいかないため、俺は口を閉じて溜まっていた唾を飲み、這うようにして自室を目指した。

 胸や腹に直接空気があたり、浮かび上がっているいくつもの醜い痕を撫でる。父親は俺のこの体を見て、何を思っただろうか。隠れて包帯を巻いていたことを知って、何を感じただろうか。日頃の自分の行いによる結果を見て、罪悪感は抱いただろうか。もしかしたら反省してくれるかも、なんて、発情期のオメガを目の前にしたとは言え、実の息子を道具のように扱って出すものを出したあの狂い具合を鑑みれば、そんな期待をするだけ無駄だった。由良さえいれば俺はどうなってもいいと思っている母親に対しても、それは同じ。問うた答えは、きっと、全部、俺にとって、マイナスだ。