消えたい、消えたい、の、裏側に隠れた、助けて、でもない、死にたい。どんな慰めの言葉も、どんな励ましの言葉も、それを言わせているのは自分のせいだと思い、素直に受け止められなかった。どうしようもなく、消えたくなる。どうしようもなく、死にたくなる。

 由良に変な気を遣わせているのも、俺のせい。俺がオメガだから。死にたい。父親が我を失って俺を犯したのも、俺のせい。俺がオメガだから。死にたい。母親が俺を無視して由良に執着するのも、俺のせい。俺がオメガだから。死にたい。

 結局、全部、全部、全部、俺がオメガだから、崩れている。俺が家族を、壊したのだ。消えたい。死にたい。俺の発情期が、亀裂の入った家庭に止めを刺してしまった。消えたい。消えたい。死にたい。涙が止まらない。

「……いなく、ならないで」

 半開きの扉を指先で触るというより、軽く触れるような気配がして。由良の震えて沈んだ声が、思わず本音を零してしまったような掠れた声が、手首を噛んで死を切望する俺の耳に届いた。消えたいと思った俺の気持ちが伝わってしまったのか、それとも、消えそうだと思うくらい俺が弱ってしまっているのか、由良の心は読み取れなかったが、また由良に、余計な心の負担を与えさせてしまったことは確かだった。

 言葉を発せなくなってしまったかのように、言葉を放つことが怖くなってしまったかのように、手首を噛んで死のうとしながら緘黙してしまう俺は、何か静かに物を置いて、抑制剤と水だろうか、そのまま立ち去る由良に一切声をかけられないまま、当然呼び止めることもできないまま、ただ、初めての発情期が家庭を壊す後押しをしてしまったことに、泣きながら苦しむことしかできなかった。