怯えても、発情がどうにかなるわけじゃない。恐怖に体が冷えるのに、発情で体が熱くなる。寒いのか熱いのか、父親が何をしようとしているのか、よく、分からなかった。分からないまま、取り憑かれたようにごめんなさいを繰り返す俺に、父親は唾を飛ばし、ベッドに上がってきたかと思ったら、足で暴力を振るった。逃げる力すら出ない俺に、防御する術はなく、何度殴られたか知れない腹部に鈍痛が走る。ごめんなさいごめんなさいと同じ言葉しか発せず、発した言葉も掠れて震えたものにしかならなかった。

 息が苦しい。父親の匂いは、吐き気を催しそうなほど不快だった。不快なのに、発情が邪魔をして、俺の目は父親すら誘惑しようとしている。おかしい。狂ってる。俺の体は狂ってる。

 父親は、アルファだった。母親と番関係にあるわけじゃない、アルファ。だから。だから。発情期のオメガのフェロモンが効かないわけじゃない。父親も俺のことを不快に思っていたとしても、アルファとしての本能が思考を鈍らせる。鈍らせるから、父親は俺の上に跨るのだ。跨って、目の色を、ギラついたそれに、変えるのだ。そうだ、もう、みんな、狂ってる。狂ってる。狂ってる。おかしくなるんだよ。その言葉通り、父親はおかしくなって。俺もおかしくなった。もう、もう、いやだ。いやだ。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 父親の、暴走。アルファの、暴走。箍が外れたように泣き叫んでパニックになる俺を、父親は自分本位に犯した。心の底から俺のことを忌み嫌っているから、痛がろうが苦しもうがどうでもいいと思っているから、それこそ死んでもいいと、死ねと思っているから、自分だけが善くなるやり方で俺の体を容赦なく壊すことができるのだろう。めちゃくちゃに破壊される俺は、ただ、泣き叫ぶことしかできなかった。