「いやだ、いやだ……、俺、こんな、いやだ……」

 発情が、治まらない。理性を取り戻した頭で、声で、泣き言を並べても、由良が出て行ったこの部屋には自分以外誰もおらず、聞いてくれる人はいなかった。一人で、堪えなければならない。あと数日は続くであろうこの症状に。

 苦しすぎる発情期。体はまだ余韻に浸っているかのように時折跳ねて、鼻は飽きもせずにタオルの匂いを嗅ぎ続けていた。抑制剤を飲みたくても、体を思うように動かせない。

 性欲も本能も何もかも吐き捨てるように荒っぽい息をしながら、来るはずのないタオルの持ち主のことを考えて待っている俺は、完全に黛に毒されていた。もう一度、触ってほしいなんて。黛のものがほしいなんて。どうか、している。気絶するほどの快感が、忘れられないなんて。発情期のせいであってほしいが、自分がこれほどまでに快楽に弱いなんて思わなかった。

 まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ。考えたいわけじゃないのに、黛のことを考えてしまう頭を抱え、オメガの発情期の苦しさに涙を零す。楽にしてほしい。どうすれば楽になるのか。いくら出るものを出したって、一時的に治まるだけ。達しても、また、虚無感。また、性欲。もう一度しても、また、虚無感。また、性欲。同じことの繰り返しで。分かっているのにそんなことを繰り返していては、精神的に追い詰められてしまうだけだった。

 我慢。我慢。我慢。堪えるしかない。この家の人たちは、誰も助けてはくれないのだから。俺をここまで運んでくれた由良も、ギリギリの状態だった。彼にまた甘えるわけにはいかない。オメガとして生まれてきてしまった以上、これは自分の問題で、自分でどうにかしなければならなかった。自分でどうにかしなければ。自分で。自分で。まゆずみ。まゆずみ。