もう、アルファなら、誰でも、いい、のに。それが、血の繋がった、弟でも、いい、のに。この、発情から、助けて、くれる、なら、もう、誰でも、いい。いい、はず、なのに。

「……まゆずみ」

 上唇と下唇がくっついて、離れて、離れて、また、くっつく。まゆずみ。まゆずみ。まゆずみ。熱が、ひかない。まゆずみ。

 由良を見ているようで見ていない俺の呟きにピクッと反応した由良は、崩壊しかけていた理性を立て直すように息を呑んだ。ギラついていた目が、ほんの少し柔らかくなる。それでも、堕ちるギリギリのところを彷徨っているかのようで。

 抑えの効かない欲望を強制的に外へ追い出すように、由良は自分の唇を噛んで痛みを与えた。取り戻した僅かな理性で本能に抗う由良は、ごめん、と掠れた苦しそうな声で謝り、発情で思考力も体力も落ち込んでいる俺から距離を取る。オメガとアルファの濃い匂いが室内で絡んで、俺も由良も現在進行形でおかしくなりかけている中、床に置いたままのカバンを弄り始めた由良があるものを取り出し、彼はそれを俺に差し出した。

「……これ、黛、先輩から、預かった、もの」

「あ……」

 性欲を煽るような強烈な匂いに誘われるようにゆるゆると体を起こした俺は、由良の手から、黛から預かったものだというそれを受け取った。う、ん、と由良の目の前であることも忘れ、柔らかな質感のそれを広げて当然のように匂いを嗅ぎながら、再びベッドに横になる。(くる)まって、胎児のように丸まって、急激に高まる性欲を発散させるように、俺の片手は自然と敏感な箇所に触れていた。乱れた息を吐きながらも堪え、黙って部屋を出ていく由良が黛から預かったものは、アルファの、黛の匂いが染み付いた、大きめのスポーツタオルだった。