由良の息が上がっていることに気づいたのは、二階へと続く階段を彼が上り切った時だった。重たい荷物を抱えて移動したことによる息切れとは違う。どことなく熱っぽいその呼吸は、我慢を強いられているかのように苦しげで。どうしたのだろう、と小首を傾げるほど俺に自覚がないはずもなく、あやふやな思考回路の中でも、俺が由良をそうさせていることは痛いほどに自覚していた。

 オメガのフェロモンを直に浴びているような由良。俺と同じようにおかしくなりかけているだろうに、欲を抑え込んでいるのは、抑え込めているのは、俺が家族で、血の繋がった兄で、そういう間違いがあってはならないと言い聞かせているからだろう。

 俺ももっと由良のために自制しなければならないのに、頭の中は依然として黛のことばかりで。指を咥えて舌をなぞって。黛。黛。黛。黛。ループ。止められなかった。

 頭が溶けそうなほど熱い。指が溶けそうなほど熱い。オメガがアルファを、しかも目の前のアルファではなく、今この場にはいない別のアルファを求めている。俺が、黛を、求めている、わけじゃ、ない。オメガが、黛を、求めている、だけ、だ。そうだ。そうに違いない。これは俺の意思じゃない。

 指。舌。弄る。気持ちいい。黛。由良。俺。アルファ。オメガ。違う。何が。気持ちいい。気持ちよくない。黛。由良。黛。由良。この際。どっちでもいいから。よくない。俺は。黛を。黛が。黛の。よくなくない。気が狂う前に。突っ込んで。やめて。突っ込まないで。やめることをやめて。突っ込んで。アルファ。アルファ。黛。由良。涙。涎。まゆずみ。ゆら。まゆずみ。ゆら。あるふぁ。なみだ。じわり。よだれ。たらり。きもちい。きもちわるい。きもちよく。なりたい。きもちよく。して。ああ。もう。どうしよう。どうしよう。まゆずみ。ゆら。もう。おれ。いんらん。いやだ。きもちい。