黛。黛。黛。どこ。どこって。違う。おかしい。何言って。何考えて。俺は。俺。

 黛。黛。黛。体が熱い。頭が熱い。欲しい。違う。欲しくない。う、ん、欲しい。欲しくない。おかしい。

 黛。黛。黛。欲しい。足りない。嘘だ。違う。もっと。もっと。なにこれ。

 黛。黛。黛。きもちわるい。

 傀儡のように黛と繰り返しながらも、自分の中の正常な部分が顔を出して。理性と本能が激しくぶつかり合った。それらがぐるぐると回っていて、酩酊。でもその渦の中心には黛がいて、恍惚。酩酊。恍惚。酩酊。恍惚。黛。黛。黛。嘔吐。

「は、あ……」

 我慢する間もなかった。蓋の空いたペットボトルをひっくり返したら当然中身が零れるのと同じように、俺の空いた口からは逆流した胃液が溢れてしまっていた。肩に顔を埋めていた為に、由良の制服を派手に汚してしまう。

「……吐いたの」

「あ、う……」

 怒るでもなく叱るでもなく焦るでもなく、困ったように声を落とす由良に、俺は迷惑をかけてばかりだった。分かっているのに、体が言うことを聞かない。黛のことを考えているからおかしくなっているのだと思っても、考えていることを考えないようにするのは容易ではなかった。

 吐いたのに正気に戻ることもなく、逆に欲望の深淵に足を取られてしまったかのように、俺は物足りなさを覚えた口に緩慢な動作で指を突っ込んでいた。俺の異端な行動に気づいた由良が、何、してるの、と心配そうに呼びかけてきたが、指を涎で濡らして口から涎を垂らして小さく喘いでしまう俺にまともな返答なんてできなかった。