両親から一生愛されないことも、オメガだから仕方がないと受け入れ、弟に劣等感を抱き続けることも、オメガだから仕方がないと受け入れ、いつか来てしまう発情期に苦悩することも、オメガだから仕方がないと受け入れ、そうやってオメガだからで済ませているうちに、自分の存在価値を見出せなくなった。

 中学生、高校生。成長していくにつれて、弟との差を思い知らされ、両親の暴言と暴力も増え始め、俺の体の傷もそれに比例するように増えていった。

 自傷行為が癖になったのも、その頃からだった。他人に傷つけられて痛がっているのに、自分でまた傷をつける。ダメだと分かっていても、止められなかった。傷の上に傷を重ねることで、傷を消す。その傷にできた傷を、また傷をつけて消そうとする。それを繰り返していたら、いつしか両親の暴力による傷なのか、自らつけた傷なのか、分からなくなった。それでも、自傷癖は治らなかった。

 傷だらけの体を隠し、オメガであることも隠し、自分をあまり見せないように過ごしていた中学三年生のある日のこと。クラスメートの男子が骨折をしたらしく、腕に包帯を巻いて登校してきた。衝撃を受けた。傷を、隠す。傷を、覆う。巻きつけて。何重にも、巻きつけて。傷を。

 最適なものだと思った。傷で形成されたような俺の体には適当なものだと思った。包帯が、魅力的に、魅惑的に、俺の目には映った。あれなら、服でしか隠せなかった傷も、隠せる。服と肌の隙間を埋められる。