まだ運命の番であることしか情報がないにも関わらず、彼のことを受け入れようと、主である俺の脳を無視して準備をし始める体は言うことを聞かず、制御できない心と体の乖離に恐怖と興奮が綯い交ぜになったような声が漏れた。そうして、輪姦されたトラウマに震え、運命の番を前に乱れ、無力なまま公園内に設置されている男子トイレに運び込まれてしまう。決して綺麗とは言えないそんな場所で、彼は俺を噛むつもりなのか。こんな場所で、俺はこの人の番にさせられてしまうのか。そんなの、そんなの、いやだ、いやだ、番になんか、なりたくない、いやだ、と情けない表情を晒してぐずぐずに泣きそうになりながらも、でも、でも、このまま、は、苦しい、と早く楽にしてほしいという気持ちも芽生え始め、それはたちまち大きく強くなり。

 欲しがりたくないのに欲しがるように、俺は口で息をしながら彼を見上げていた。見上げてしまっていた。どちらからともなく引き寄せられるように目が合って、合うと、運命の番は瞳をギラつかせて自身の唇を舐め、浮いていた俺の足を地につけさせた。強制的な発情でどこもかしこも貧弱になっているせいか、自力では立てず、腕から落下するようにぐらぐらと崩れてしまう俺を、ちゃんと、立て、と彼は乱暴に壁に押さえつけて。座るな、と俺の行動を制した。指示を出した。アルファがオメガに。命令を下した。立て。座るな。

 もう既に悪くなりかけている機嫌をそれ以上損ねないように、俺は壁に凭れ壁を頼りに必死に自重を支えた。熱くて重くて怠くて。脳がぐらぐらと揺れている。目の前がぐにゃぐにゃと歪んでいる。今にもガクンと折れそうな膝がガタガタと震えている。彼の手から離れた今、逃走することも可能だが、こんな状態では、意識も身体も覚束ないこんな状態では、無意味だった。すぐに捕まる。捕まって、もっと酷い目に遭ってしまうかもしれない。この人に。壊されたくない。この人に。めちゃくちゃにされたくない。のに、運命が、邪魔をする。