人生で出会えたら奇跡とまで言われている運命の番を相手に抵抗なんてできるはずもないのに、惚けたように、譫言のように、あ、あ、やだ、いやだ、やめ、やめて、は、あ、やめて、ください、は、ん、う、やだ、と思考力が低下した頭で助けを乞う言葉を生み出す俺は、喘ぐみたいな声を上げながらも瀕死の理性をなんとか繋ぎ止めようとしていた。

 気温の高さや巻いた包帯、それを隠す長袖長ズボンの地味な衣服のせいだけじゃない異様な体の火照り具合は、やっぱり、どう考えても、発情の症状とほぼ同じで。もしかしたらそれ以上かもしれない。普通のアルファよりも強く惹かれる、惹かれてしまう彼と会って予定にない余分な発情を促進させられたのだから、その彼を求めてしまうのは運命に出会したオメガの性なんじゃないか。自分で自分をコントロールしようにも、ゲームでいうオート機能のように頭も心も体も勝手な判断を下していく。この人が。俺の。番。この人は。俺の。番。この人に。噛まれ、た、い。え。あ。あ。

 あまりにも自然と芽生えた、黛にすらまだ思ったことのない衝動的な欲求に、急激な気持ち悪さを覚えてしまったその直後、おえ、と口から、我慢する間もなく、引き出されるように、吐瀉物が、落ちた。息が、息が、息が、専ら乱れていく。呼吸が、十分に、できない。吸えない。吐けない。

 悪臭を放つ吐瀉物は胸元から腹にかけてどろどろに服を汚し、そこから広がって地面に落下していた。俺を横抱きにしている彼の服にも付着し、は、と上から興奮が冷めたような声がしたが、それでも、感じる息遣いは熱いままで。嘔吐したところで、嘔吐した人を見たところで、手のひらを返すように萎えてしまうほど脆くて弱い繋がりではないのだろう。運命というものは。俺も、彼も、興奮から抜け出せていないのが何よりの証拠だった。愛撫も何も、誘惑も何も、されていないのに、していないのに、運命に翻弄されている意識がどこかでうろちょろして道に迷っているのだ。当分は帰って来れない。