抑制剤は万能ではないので。限界があるということを今一度お伝えしておきます。滑らかに告げられた医療のプロとしての助言に、知識のない素人が物申すことなどできるはずもなく、俺は素直にはいと返事をすることしかできなかった。しっかりサポートはしますので、何か気になることなどあればお気軽にご相談ください、とはいを最後に何も喋れなくなってしまう俺を気遣う看護師は、こちら、オメガ用の抑制剤です、といつもの口調でいつものように薬を処方してくれた。慌てて財布の中身を開け、覗き込んで弄って金を出し、ナイロン袋に入れられた抑制剤を受け取る。程なくしてもらったお釣りを財布に流し込んだら、看護師にアドバイスをされたことにどうしてか不甲斐なさを覚え、その気まずさから逃げるように、俺は小さく会釈をしてそそくさとその場を後にした。お大事に、という看護師の声を背中で聞きながら。

 一つ増えた持ち物を片手に帰路に着いた俺は、俯いて溜息を吐いた。とぼとぼと歩きながら、俺の身体を懸念してくれた看護師の言葉を反芻する。いずれ忠告されるのではないかと思わなかったわけじゃない。抑制剤を飲み続けるのは身体に良くないことも、番がいれば発情期に怯えなくて済むであろうことも、自分なりに理解しているのに、それでも、抑制剤がなければ落ち着かないし、なくなったら酷く不安になってしまうから。手放せない。大仰になってしまうが、依存してしまっているのだろう。効く効かない関係なく、飲まないと心の安寧を保てなくなってしまうのだ。