「恋人、が、いなかったら、何か、その、問題でも、あるのでしょうか……?」

 恐る恐る回答すれば、質問を質問で返してしまえば、問題があるわけではないですよ、ごめんなさい、プライベートなことを聞いてしまって、と看護師は申し訳なさそうに眉を下げた。失敗した。いや、恐らく何を言っても、失敗したと思ってしまっただろう。正解なんて見つからない。正解なんてない。でも、俺が選んで吐いた言葉に嘘偽りはなかった。俺に恋人はいない。瀬那は俺の番だよ、と決定事項にしている人なら心当たりがあるが、その人と付き合っているわけではないのだ。きっと彼と、恋はできない。彼とは本能的な結びつきが強いだけ。ただ、それだけ。発情期のせいで彼を求めて、求められたから、乱れ狂いそうな行為に及んだだけにすぎない。

 理性をなくし、気絶するほどの快楽を与えられたことを思い出して羞恥を感じながらも、息を吐いてそれを顔には出さないようにして。いえ、大丈夫です、と良い方ではなく悪い方に転んでしまった看護師をそれ以上転ばせないように、俺はありきたりな言葉で気にしていないということを伝えた。看護師は未だ眉を下げたまま、もう重々承知しているとは思いますが、と前置いてから、再び息を吸って口を開いた。

「抑制剤は、飲みすぎると身体に良くないです。今は効力があったとしても、大人になったら効かなくなるなんてことはよくある話なんですよ。アルファと番になることがオメガの最大の幸せとは限らないけど、信頼できるアルファと番を結ぶことで精神的にも身体的にも楽になったというケースは少なくないから、鳴海さんの身体のためにも、いずれはそういう選択を考える必要があることも頭の片隅にでも置いといてくださいね」