理性と本能の狭間で黛を見上げる俺を、口の端を微かに上げて見下げる彼は、唾液で濡れそぼった人差し指と中指で、自我を持ったかのように蠢く俺の淫猥な舌を挟んで緩く引っ張った。舌を出された醜い姿のまま、黛の声が喘ぐ俺に降り注ぐ。

「理性飛びそうになってるね。でも、場所が悪いから、これ以上おかしくならないように俺が正気を取り戻させてあげる」

 妖しげに唇を舐めた黛が、舌を切るように指を滑らせた。俺の舌先と黛の指先を脆く繋いだ淫らな糸すら切り捨てると、黛は瞳孔を開いたまま、てらてらと滑っている指を俺の首に押し当てる。え、と疑問を抱く間もなく触れる面積が増え、黛の五指が俺の首を包んだ。それから、躊躇なく、弄ぶように、気管を、喉を、絞められ、自分の口から潰れたような呻き声が漏れた。飛びそうになっていた意識や理性を呼び戻される。

 なんで。なんで。なにして。え。え。まゆずみ。なにして。まゆずみ。なにこれ。いき。できない。できない。まゆずみ。

 頼りない両手で黛の腕を掴んで目を白黒させながらも、自分の身に何が起きているのかよく分かっていなかった。自分が何をされているのかもよく分かっていなかった。ただ、酸素の通り道を封鎖されてしまったから苦しい、という当たり前の事実しか飲み込めておらず、それが人為的であることすら、よく分かっていなかった。分かりたく、なかった。

「ぐずぐずな顔も可愛いけど、苦しげな顔も可愛いね」

 余裕そうな声。躊躇のない手。ひょろひょろとしている非力な俺が腕を掴んでも、制服の上から爪を立てても、引き剥がせるような効力は発せず、ギリギリと首を締め付ける黛の骨張ったその手に、心音が、体温が、無駄に跳ね上がるだけだった。