いつまでも続く吐き気に冷静になれないまま、子供が泣きじゃくったような汚い顔のまま、まゆずみ、と救済を求めるようにゆるゆると首を動かして視線を送ると、こちらを見下ろす彼と至近距離で目が合った。

 鏡越しの時は気づかなかったが、黛の俺に向ける真っ黒なその瞳孔は、何かに強い興味を持っているかのように大きく開いていて。そこで初めて、雄を意識して、アルファを意識して、黛から漂う甘ったるい匂いに犯されそうになった。

 黛は。雄で。アルファで。俺は。雄の形をした雌で。オメガ。アルファ。と。オメガ。黛。と。俺。孕ませる方。と。孕む方。

 黛。アルファ。黛。アルファ。アルファ。アルファ。いい匂い。指。舌。どうして。気持ちいい。違う。もっと。黛。違う。もっと。して。違う。やめて。やめて。

 気持ち悪さが気持ちよさに変化していく気持ち悪さに、意識も理性も飛びそうになっていた。

 やめてほしいのにやめてほしくない。でもやっぱりやめてほしい。でもやっぱりやめてほしくない。違う。やめてほしい。違う。やめてほしくない。やめてほしい。やめてほしくない。やめてほしい。頭が混乱する。

 鼻を掠めるアルファの匂いに、俺に触れる黛の体温に、下腹部にある臓器が、直腸内にある子宮が、あまりにも近くにいる雄を求めるように、小さく、疼いた、気がした。

 心と体が切り離されている。整理しきれない現状なんてどうでもよくなるほど体が先行してしまう俺は、涎をだらだらと垂らしながら自ら舌を動かし黛の指を食もうとしていた。意思に反して勝手に動く舌を止められない。