俺の頭上で全てを出し切ったペットボトルを手放す事なく緩めに指先で掴み直した黛は、可愛いね、瀬那、と口癖のように脈絡のない言葉を発し、透明で薄い空の容器の底部分を俺の肌に滑らせた。僅かに熱を持つ頬、黒い輪っかの装飾が施された首、淫らに晒している鎖骨、痣やら痕やらが残っている薄い胸元。黛の体温は何一つ感じないのに、物を隔てた焦れったい、もどかしい触れ合いに、通常の接触よりも扇情的な何かを感じてしまった。焦らされている。俺は。今。焦らされている。黛に。さっきまで触れていた僅かな温度が恋しい。黛。

 物で触られているのに、それに高揚してしまう俺は、まゆずみ、と冷水で濡れた唇を揺らした。水と涎が混ざったような重みのあるねっとりとした液体が落下する。黛はこちらを見下ろしたまま、俺に触れているペットボトルの底で左胸の辺り、心臓のある箇所を、トントンとくすぐったさを感じるような力加減で軽く叩いた。挑発的なその行動に、瞳孔の開いた目で刺さりそうなほどじっとこちらを見る黛のその視線に、外側から刺激される心臓が大きく跳ねる。ああ、ダメだ。おかしくなる。狂う。盗られる。

「オメガの瀬那が求めるアルファは他の誰でもない俺だよね。俺もそうだよ。俺が求めるオメガは瀬那で、瀬那以外はあり得ない。考えられない」

「あ、あ、まゆず、み……」

「瀬那はいつだって俺の瀬那だよ。瀬那も俺のこと、自分のものだって思ってるよね。嬉しいね。俺と瀬那は、相思相愛だよ」

「あ、う、まゆ、ずみ……、まゆずみ……」

「動いてる心臓だってお互いのものだから、もしかしたら運命の番をも超えちゃうかもしれないね」

「あ、あ、は、まゆずみ……」

「可愛いね、瀬那。汚くても醜くても乱れていても、瀬那はずっと可愛いから、俺の前では全部晒け出していいんだよ。醜態も、肉欲も」