「ボロボロだね、瀬那。そんな姿も可愛いね、瀬那。瀬那、大丈夫だよ。俺が綺麗にするから。瀬那を襲った奴は、俺が徹底的に調べて吊し上げにするから。大丈夫だよ。でも、その前に、瀬那の体の外からも内からも、どこの誰かも知らないクズの臭いがして不快だから、ひとまず水で洗い流そうね」

 何も話していないのに、乱れた服装や臭いで襲われたことを悟ってくれたのか、状況説明を求められなかったことに安堵する。誰もが今の俺を見れば、何があったのか、どうしたのか、大丈夫か、などと状況や心境を知りたがるだろうが、黛は、そういう質問をほとんどしない。自分の中で想像し、自分の中で完結しているのだろう。決めてかかる口調は、そのためなのかもしれない。全く見当違いな解釈をされることばかりではあるが、今は、今だけは、的中していた。

 そっと俺の手を放した黛の行動をぼんやりと眺める。まだ全体の数パーセントしか黛に触れてもらえていない。掴まれた手は黛の体温を覚え、舐められ噛まれた指は、黛の淫靡な口内の熱を覚えていた。その濡れた指を、何かに操られるように、舌先で舐ってみせる。塩っぱさの中に、黛の味が隠されていた。キスを、されたわけでもないのに、恍惚としてしまう。俺はいつになったら、自分を取り戻せるのだろう。気持ち悪い。自分が、気持ち悪い。黛。触って。さわって。まゆずみ。きもちわるい、じぶんが。きもちわるい。

「瀬那、これで、少しでも瀬那の体を綺麗にしてあげるね」