黛、ではなく、まゆずみ、とひらがなで書けば、あとは一度書いた文字の道を、何回何十回と辿っていた。何をしているのか、何がしたいのか、自分でも自分が理解できなかった。ただ、そうすれば、黛を召喚できるんじゃないかと思っていて。俺は黛だけを求めていて。俺は黛に触れてほしくて。文字をなぞる指と一緒に、口も動き始めた。

 まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ

 枯れた声。掠れた声。時折咳き込みながらも、気が狂ったように手も口も動かし続ける俺は、瀬那、と最初から当然のように俺を下の名前で呼んでいた黛の声を待っていた。来てくれるわけがないのに、待っていた。どこで呪文のようなそれを終えたらいいのか分からなくなってしまったから、来るまで壊れるまで死ぬまで、それを大きな区切りにして、待っていた。黛を、待っていた。吐いて、泣いて、唱えて、狂って、待っていた。まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ、どこにいるの、まゆずみ、まゆずみ、おれはここだよ、まゆずみ、まゆずみ、まゆずみ

 地面との摩擦で指先の皮膚が傷ついても、自分から、土から放たれる様々な臭いに鼻が捥げそうになっても、吐瀉物の上から文字を書くという汚いことをしても、実際に汚くなっても、別にどうでもいいと思ってしまうくらいにはおかしくなっていた。