「鳴海くん、みんなで一緒に愉しいことする前に、写真、撮らせてよ。鳴海くんの、オメガの写真」

「は、は……」

「俺の友達が運命の番を探し回っててさ。オメガ見つけたら写真撮って送れってうるさくて」

 ね、だから、鳴海くん、協力よろしく。ほら、こっち向いて。喋りながらスマホを取り出し、俺にカメラを向ける男の手が、パニックに目を泳がせ顔を逸らす俺の顎を掴んだ。戦慄き、浅くなる呼吸を繰り返す俺に向いている無機質なスマホのレンズ。鳴海くんこっち見てー、こっち、見て、見てー、見てー、ねぇ、鳴海くん、見て、見て、あ、いいね、最高、めちゃくちゃ唆るわ、そのまま見続けて、はい、チーズ、とふざけた声でへらへらしながら圧力をかけ強制的に俺の目線を誘導し、親指で画面をタップしてシャッター音を響かせる男。雰囲気を作為的に作り出すように周りで愉しそうに嗤い声を上げるオーディエンス。我関せずと言った様子で車を走らせ続ける運転手。どこの誰かも知らない男のスマホに保存されてしまった、どこの誰かも知らない友達に送られてしまうかもしれない俺の顔写真。言わずもがな、どこをどう切り取っても不利な状況だった。掴まれている箇所が痛い。離して。この後の展開が怖い。助けて。

 両手で顔を隠すこともできなくて。身を守るための最低限の防御として丸くなることもできなくて。あ、あ、と恐怖のあまりまともな言葉すら喋れず、その感情が冷たい水滴となって眦を伝い、耳殻の方へと落ちていく。仰向けのまま、下から見た男たちの目はどれも、歪んだ視界でも分かるほどにギラついていて盛っていた。発情期のオメガのフェロモンに誘惑され理性を失い、三人で俺を襲ったクラスメートや、息子であるにも関わらず、ストレスを発散させるように俺の中で欲をぶちまけた父親のそれと重なり、連想させ、必死に考えないようにしていたトラウマが再燃する。やめてください。ごめんなさい。ゆるしてください。