生徒玄関で靴に履き替えながら、そっと溜息を落とす。足も肩も気も、酷く重たく感じた。テスト後の解放感に包まれた校内で息を潜め、誰とも口を聞くことなく校舎を出た俺は、足元を見ながらとぼとぼと歩いて校門を抜けた。

 テストは毎回憂鬱で、俺よりも圧倒的に出来のいい由良や、性格や嗜好は最悪だが、学力自体はずば抜けている黛が、純粋な気持ちで、素直に羨ましかった。アルファが、羨ましかった。羨望の眼差しを向けざるを得ない。黛に至っては、何でもそつなく、寧ろ余裕綽々とこなしている。涼しげなあの表情が歪んだ瞬間を、俺は見たことがなかった。できないことはないのかと思うほど、何事もスマートにやってのけるのだ。良いことも、悪いことも。

 黛の言動に躊躇はない。淡々と放つ言葉も息をするように首を絞めるような悪行も、類を見ないほどぶっ飛んでいるが、感情に身を任せて、つい、思わず、口を滑らせ手を出してしまったような、反射的なそれとは明らかに違っていた。理性的なのだ。あまりにも。怖いくらい。考えるよりも先に体が動くのとは違う、考えて、考えた上で、そうしているような気がしてならなかった。

 脳内を整理するように巡らせて形となる彼の思考は、声帯筋を振動させることで生じる彼の声は、言葉は、俺に押し付けるものばかりで、俺を決めつけるものばかりで。反論したくてもその隙がなく、あっという間に堕とされていく。まるで、蟻地獄に落ちてしまったかのよう。でも、深い闇に引き摺り込まれていくような、あの謎の浮遊感は、正直、嫌い、ではなかった。絞首も嘔吐も苦痛そのものなのは確かなのに、心の奥の裏側はそうじゃない。貪欲で甘美なキスも、官能的に皮膚の上を滑る指先も、そう。俺は、俺の中の裏は、黛の接触を不快に思っていないのだ。