「雄を誘うしまりのない顔。雄を誘うオメガ特有のフェロモン」

 可愛いね。おいしそうだね。瀬那。頭が回らない中、すぐ側で聞こえた黛の淡々とした声に、唇を舐めるような音に、専ら恐怖心を煽られた俺は、あ、あ、と指を咥えさせられたまま喘ぐことしかできなかった。

 息が苦しくて、喉が熱くて、傷が痛くて、液が臭くて。次から次へと襲い来る精神的肉体的苦痛に訳が分からなくなる。

 黛。まゆずみ。やめて。助けて。たすけて。

 俺に醜態を晒させている黛に縋ったって逆効果なだけなのに、思考力が著しく低下しているせいか、今の自分にはこの場にいる黛しか縋れる人がいないと脳が判断し、自由の利かない口が勝手に、まゆずみ、と形を変えようとしていた。でもそれは、淫靡な嬌声のような、ただ吐息が漏れる頼りない音にしかならなかった。

 舌体、舌尖、舌下面など、唾液と嘔吐物に塗れた口の中を、舌全体を、喉の奥を、飽きもせずに長い指で弄びながら何度も嘔吐かせ、空いた片手で俺の腰を抱いている黛が、責め具を増やすようにするすると、その骨張った手を下腹部に移動させた。

「あ、あ……」

 パニックになっていても、黛が触れる箇所にだけはなぜか敏感に反応し、その強すぎる刺激に声が漏れ、膝がガクガクと震え出す。黛の支えがなければ立っていられないと感じるほど、体に力が入らなかった。