「トリックオアトリート!!芙羽梨〜お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞー!!」
「わあっ…!?彩凛ちゃん!く、くすぐった…あははっ…!」
「芙羽梨くすぐり弱いなぁ…ほらほら〜」
ただいま私は、彩凛ちゃんからイタズラを受けている真っ最中なのですが…。
今日はどうやらハロウィンらしく、学校の中ではお菓子交換をしている人たちをよく見る日となっています。
「あ、彩凛ちゃんもうやめて〜!!」
「ふふっ、可愛い芙羽梨が見れたからもう良しとしましょ」
ニコニコ満足気な彩凛ちゃんに、私は口を尖らせる。
「もう…彩凛ちゃんのイジワル…」
頬をふくらませてそう言うと、彩凛ちゃんは何故か顔を赤く染めあげた。
「っ…ご、ごめんね?あまりにも芙羽梨に効くから…」
「じゃあ、もうしないでね…?」
「うん、約束」
申し訳なさそうに謝ってくれたので、カバンから包装されたとあるものを取り出す。
今日のために作ってきたものだけど、喜んでくれるかな…?
「ふ、芙羽梨それって…!!?」
取り出したものを見ると、彩凛ちゃんは目を輝かせた。
「えへへ、ちょっと作ってみたんだ。食べてくれる…?」
作ってきたのはクッキーとカップケーキ。
クッキーはハロウィンっぽさを出したかったから、おばけやカボチャ、黒猫のアイシングをしたアイシングクッキーにして。
カップケーキは紫芋で紫色のクリーム、カボチャでオレンジ色のクリームを作り、その上にアイシングで作ったとんがり帽子を乗せた。
大変だったけど、とってもよく出来たと思ってるからぜひ食べて欲しい。
「食べるに決まってるじゃん…!!美味しそうだし、すんごく可愛い!!」
「ほんと?良かったぁ…いっぱい食べてねっ」
嬉しいな…やっぱりお菓子作りは楽しいけど、こうして食べてくれる人がいるからこそ作りがいというものがある。
「ん〜!美味しいっ…!こんなに美味しくて可愛いお菓子持ってたのに、イタズラしちゃったんだ私…」
少し後悔してる彩凛ちゃんに、思わず笑みがこぼれる。
「ふふっ、私もこれを先に出しておけばよかったかも?」
ちょっと遅かったかな…。
なんて思っていると、「そういえば」とカップケーキを頬張りながら彩凛ちゃんが口を開いた。
「このお菓子、彼氏にはまだあげてないの?」
「う…えっと…」
彼氏、というのは詩音先輩のことだろう。
痛いところを突かれ、言葉につまる。
「うん、実は詩音先輩…今日生徒会のお仕事で学校に来てないの」
「えっ!?そうなの…!?」
そう。
昨日連絡があり、私も初めて知ったんだ。
学校同士の交流会があり、ちょうどハロウィンのこの日に他校に行かなければならないと言っていた。
「意地でも休む」と言い続けていた詩音先輩を何とか説得したけど、とても大変だったなぁ…。
生徒会の人たちも昨日初めて聞いたらしく、混乱したらしい。
「…なるほどね。じゃあ、今日は会えないんだ?」
「可哀想に」と眉を下げて言う彩凛ちゃんに、首を横に振る。
今の話の流れだとそういうふうになるよね。
「あ、ううん。放課後に会う約束してるの。疲れて帰ってくると思うから、やめておこうと思ったんだけど…」
「芙羽梨に会うことが、僕の疲労回復に繋がるんだよ」
なんて言われてしまった。
そのまま彩凛ちゃんに伝えると、苦笑をこぼす。
「あー、言いそうだなあの人なら…。でも、それなら良かったね。芙羽梨だって嬉しいでしょ?」