前夫のマリユスには、一番最初に恥も外聞もないような、理不尽かつ非常識なことをきかされていた。

 だから、いつ追いだされてもいいように、物は出来るだけ持たないようにした。

 生家に帰ることは出来ない。それがわかっている。だから、出来るだけ物はすくなくして、いつでも移動できるようにしておきたい。

 結果、最低限の衣服やお気に入りの本が入っているトランクが三つだけになった。

 荷造りしたら、トランク三つ分だけだったのでわれながら驚いてしまった。

「本来なら妃殿下には、ちゃんとした馬車に乗っていただきたいのですが……。兵士を二百名ほど連れて行きますので、荷馬車になって……」
「いいのです。どのような馬車でも、乗せてもらえるだけありがたいですから」