「あの日、あの夜……」

 自分でもバカだと思った。
 さっさと逃げればいいのに、そんなことを口走っていた。

 このまま彼の左手を振り払い、森の中に逃げ込めばいいのに。背中が痛いけれど、全速力で走れないわけではない。馬の足にかなうわけはないけれど、森の中だったら茂みもある。うまくいけば、木に登ってやりすごせるかもしれない。

 お兄様とこれ以上いっしょにはいられない。

 クロードのところに、彼のもとに帰るのよ。