「失礼いたします」

 断った自分の声が、情けないほど震えている。

 そして、室内に足を踏み入れた。

 なぜか真正面を見ず、室内を見まわしてチェックしてしまった。

 ありきたりな書斎ね。ローテーブルがあり、それをはさんで長椅子が一脚ずつ置いてある。

 奥側、扉の対角線上に窓があって、その前に執務机がある。

 圧巻なのが本棚の数。窓と扉をのぞいたすべての壁に本棚があって、本がぎっしり詰まっている。

 そこでやっと、真正面を見た。

 正確には、執務机の向こう側、窓の前で窓外の景色を眺めている人物の背を見た。