一年もよくぞ耐えられたものだわ。

 このバカもわたしも。

 彼にロクに返事をすることが出来なかった。

 お姉様が、奥の宮殿の「迎えの間」に入って来たからである。

 バカ男とバカ女は、親衛隊や執事や侍女たちが見守る中、恥ずかし気もなく熱い抱擁をしてのけた。それから、さらに熱い口づけをかわした。

 わたしも含めて、こんな見苦しい、いえ、官能的なシーンを見たいなんて思っていない。

 だれもがいたたまれない思いを抱き、必死に視線をあらぬ方向へ向けている。

 ずっと周囲と自分自身を偽り、演技をしてきたのがバカバカしくなってきた。

 だから、何も言わずに背を向け歩きだした。