詠斗によって付けられたキスマークも、そろそろ薄くなって消えかけてきたものだから、セフレ君に連絡を入れて今夜会う事になった。





「お疲れ様です。」


 終業時刻、ホワイト企業はほぼ全員が帰宅ラッシュで、勤怠を押してその波に乗って人混みを抜ける。



 タクシーに乗り込み向かう先は、とある美容室だ。




 個人経営のお洒落で小さなサロン。こ洒落た木製の扉を開けば、綺麗な音を奏でるベルに心が穏やかになる。



「杏ちゃんいらっしゃい。」


「ヒナタ君やっほー。」


 軽快な足取りでノーゲスの店内を一人歩きし、奥のバックヤードへと足を進める。



 ヒナタ君は最近独立して、自分でお店を経営している美容師さんだ。


 偶々この店に髪の毛を切りに来た時に、あれよあれよと意気投合してセフレになった。



 因みに結婚間近の彼女持ちらしく、所謂“浮気”ってやつに分類されるのだけど、一生の伴侶と一瞬のセフレは別物と称し、糞みたいな泥沼的展開は無い。



 どうも彼女さんは性欲とやらが乏しいらしく、なんとヒナタ君には私以外にも何人か女が居たり、それが引っ掛からなければ風俗に足を運ぶんだとか....。



 
 糞ヤクザの所為で、ご無沙汰だったヒナタ君。というよりもセフレとの戯れの時間。


 私が到着するなり、店の電気を消したヒナタ君は奥へとやって来た。




「どうしたの?そんなに見つめちゃって、」


「最近エッチしてなかったからね~。」


「仕事忙しかったの?」


「いいや~。邪魔が入って、ね....」



 思い出すだけでも腹立たしい、キスマークの所為でセフレ君とは会えず仕舞い。


 てか詠斗のマーキングの所為で、ケンちゃんに萎えられちゃって大変だったわ。

 

 私はお前の女じゃないし!!本当に迷惑極まりない奴だ。




「そっか、久し振りなら狭まってて気持ちよさそう。」


「だろうね~。」


 変態は何処までも思考回路が変だ。すべてエロスな方向へと持っていく。