「友達として付き合うのは良い。でも…私は、結月君を裏切るような真似は出来ないわ」

もう二度と結月君を傷つけたくはない。

私は、はっきりと自分の気持ちを理解している。

隆盛を選ぶことは出来ないと。

「どうしても駄目なのか?」

「…どうしても駄目よ。悪いけど…」

「…そうまでして…。…何でそこまであいつが良いのか、俺には分からないよ」

そう。

別に構わない。他人に分かってもらう必要はない。

「大体あいつは…今日は星野の誕生日なのに、彼女の誕生日を祝うことさえしてないじゃないか」

「しょうがないわよ。今日は試験の日なんだから」

結月君に限らず、大抵のクラスメイトにとっては試験が最優先に決まってる。

「試験と星野の誕生日と、どっちが大事なんだよ?」

そんな、「仕事と私とどっちが〜」みたいな…。 

「馬鹿ね。誕生日なんていつでも祝えるでしょ?試験は今日しかないんだよ」

ましてや結月君は、私達より遥かに成績を重視してるんだから。

来年度も学費免除枠を維持するには、試験で良い成績を取らなければならない。

私の誕生日より、ずっと大事なことだ。

私だって、結月君が私の誕生日を優先して、そのせいで勉強を蔑ろにして欲しくない。

誕生日のことなんて後回しで良いから、試験に集中して欲しかった。

だから、これで良いの。

試験の時期と被ってさえいなかったら、結月君だって今日お祝いしてくれたはずだよ。

別に当日じゃなくても、後日祝ってもらえるんだから、私は満足だ。

「だからって…。星野のことを平気で二の次に出来る時点で、あいつに誠意があるとは思えない」

変な話。

結月君は、誠意の塊みたいな人なのに。

「ついこの間だって…星野が授業中に倒れたっていうのに、気遣いもせずに罵倒してたじゃないか」

あぁ、ダイエットのときのこと?

「あれは私のせいよ。自業自得よ」

「だからって、あんなに責めることないだろ」

それだけ心配をかけたってことよ。

って言うか結月君は、本来あれくらい口の悪い子なのよ。

心を許すまでは、猫被ってるから。

私に対しては心を許してるんだと思うと、むしろ嬉しい。

「それに、ちゃんと気遣ってもらったわ」

心配してた、って言ってくれたし。

そもそも、心配をかけるようなことをする私が悪い。

「…そんなに、あいつのことが…三珠のことが良いのか?」

「そりゃそうよ。彼氏だもん」

「…俺よりも、ってことか?」

「…比べられないわよ。結月君は彼氏で、隆盛は友達なんだから」

って、前にも言ったじゃない。

何度聞かれても、何度考え直しても、結論は同じ。

私は結月君を選んだ。答えはそれだけ。

…こんなにも私のことを思ってくれている隆盛には…申し訳ないけど。