前も言ってましたよね、それ…。

「やっぱり、お嬢さんには継がせてあげないんですか…?」

僕は別に、この道場を継ぎたいからここに通ってきてる訳じゃない。

単に、第二の実家だと思ってるだけ。

他に継ぎたい人がいるなら、潔く身を引く。

ましてや、師匠のお嬢さんなら、文句なく譲ることが出来る。

誰より正当な後継者だ。

「才能があれば、そして本人にその気があればの話だ。前も言ったが…別に世襲制で継いでる訳じゃない」

…そういえば。

師匠の前の人も、別に師匠と血縁関係のある人じゃなかったんだっけ?

前に、ちらっと聞いたことがある。

「とはいえ、お前も実家の家業があるからな」

「そうですね。…絶対に継がなきゃいけない訳じゃないですけど」

母に、僕に家業を継いで欲しいと思ってるのか、聞いたことがあるが。

あなたの好きにすれば良いわ、としか言われない。

「どちらを優先するかは、お前次第だ。どちらを選んでもお前なら上手くやるだろうし」

「…」

「好きに決めれば良い。お前が何を選んでも、その道を応援する」

…有り難いお言葉。

いないけど、父親って、いたらこんな感じなんですかね。

まぁ元々この人は、僕の父親代わりみたいなものなんだけど…。

こんな父親を持てたお嬢さんは、幸せですね。

…あ、いや待て。

「…もう少し、生活力ってものがないとなぁ…。尊敬したくても尊敬しきれませんよね…」

「…何の話だ…?」

「こっちの話です」

とはいえ。

人間、ちょっと欠点があるくらいで丁度良いのかもしれない。

完璧な人間なんて、何処にもいませんからね。