「…はぁ、何とか食べた…」

「ありがとうございます」

(ほぼ師匠のお陰で)何とか、二人でデコレーションケーキを平らげた。

無駄にならなくて良かった。

「…胸焼けを起こしそうな気がする…」

師匠が何か呟いてる気がするけど、それはまぁ、聞こえなかったことにして。

「唯華さん…。例の僕の彼女が、もうすぐ誕生日なんですよ」

と、事情を説明した。

「そのときに、ケーキを作ってあげようと思って。今日はその練習です」

「そうか。…じゃあ、今作ってるそれも?」

「あ、これですか」

僕は、自分の手元を見下ろした。

…うん。

「そうなんですよ。…自分としては、ちょっと冒険なんですけどね」

「冒険?」

「えぇ。初めての試みですから」

思いついて、図書館に行ってみて。

運良く作り方の本が置いてあったから、それを借りてきて、作ってみてはいるものの。

最終的に上手く出来るかどうかは、まだ分からない。

しかし。

「お前なら大丈夫だろう」

何処にそんな根拠があるのか、何事もないかのように言い切る師匠である。

「簡単に言ってくれますね…。僕だって失敗することはあるんですよ?」

「知ってる」

それなら良かった。

まぁ、師匠はよく知ってるでしょうね。

長い付き合いですから。

僕が最初に道場に来たときは、武道なんて欠片も適性のない、酷い運動音痴だったことも知っている。

唯華さんはよく、僕をあたかも、何でも出来る天才のように言うけど。

とんでもない。

僕は天才とは程遠い。

僕が天才に見えるなら、それは僕の努力の結果だ。

今でこそ、針仕事もそこそこ見られるようになってきたけど。

最初に針を握ったときは、ボタン付けもままならなかったんだから。

懐かしい。

それが今や、こんな小物を作ろうとしてる。

上手く出来るかは分からないけど。

更に。

「学年末テストの勉強もしないといけないんですよねー」

「忙しいな」

そうなんですよ。

「労ってください」

「ねぎ…らっているのかは分からないが…。…家内がいつも言ってる。お前は真面目な努力家で、見習わなきゃならないと」

「そんなこと言ってくれてたんですか?」

まぁ、会えばいつも褒めてくれるんですよね。あなたの奥さん。

「自分も同意見だ」

「そうですか」

「お前になら、安心して無月院流を任せられる」

…だから、それは過言なのでは?