…それから僕は、試験勉強の合間を縫うようにして作業を始めた訳だが。

家で作業していると、母は何を誤解したのか、じーっとこちらを見ては、にこにこしているので。

いや、誤解も何も、確かに唯華さんへのプレゼントなんだけども。

恋人への手作りプレゼントを親に見られるというのは、どうにも居心地が悪くなる。

ケーキにしてもそう。

唯華さんへの誕生日ケーキを、作るのは良いとして。

例によって、あまり洋菓子を作るのは得意ではないので。

ちょっと練習しておこうと思ったのだが。

それも家で作っていると「ケーキを作るなんて珍しいわね。星野さんにあげるの?」なんて聞かれてしまった。

否定したけど。

何だかいたたまれないと言うか、気恥ずかしいと言うか。

…正直、放っておいて欲しかったので。

僕は、逃亡策に出ることにした。

…そこで。







「あぁ、僕には第二の実家があって良かった…」

僕は師匠の家に逃げることによって、母の痛い視線から逃れた。

師匠の家万歳。

幸いなことに僕の師匠は、僕が勝手に家に来て、何をしてようが、台所を勝手に使おうが、何も言わない。

それが、今は非常に有り難かった。

…それどころか。

「どうですか?味…」

「味…味は美味い。美味いが…」

「が?」

「…量が多い」

「頑張って食べてください」

「…」

試しに作ったケーキを味見して、感想をくれる。

ついでに、一人で食べるには多いケーキを、一緒に平らげてくれる。

なんて頼もしいんだろう。

「自分はあまり…生クリームが好きじゃないんだが…」

何か呟いてるような気がするけど、聞こえなかったことにしよう。

文句言わないでくださいよ。

僕だって、そんなに生クリームは得意じゃないんですよ。

だから、一緒に食べてもらってるんです。

「スポンジケーキ、硬くないですか?」

「いや…丁度良い」

「そうですか」

それなら良かった。

何味のケーキにするか、あれこれ考えたけど。

結局、やっぱり誕生日と言えばということで。

普通の、生クリームといちごのデコレーションケーキを作ることに決めた。

いちごだけだと寂しいので、フルーツの缶詰を使って果物増し増しで。

ちょっと贅沢なデコレーションケーキ。

誕生日ですからね。

問題は、僕があまり洋菓子を作るのが得意ではない、という点だったけど…。

今のところ、師匠には好評みたいなので安心した。